警戒したくてしてんじゃない
ある日のこと、私の横でしげるが急に、、寝た。
おい、まじか、と目を疑った。
すぐに目を開けたが伏せの体制のまま一応はリラックスの姿勢で寄り添ってくれてる。
先代おさむと比べてはいけないのは頭では判っているのだが、保護犬出身のパグしげると何の苦労もなく育てたおさむとのギャップを感じることは少なからずあった。
起きてる間はずっと走ってパトロールして、吠え、マーキング場所を探し、放出する。
相変わらずリラックスからかけ離れた自由時間を過ごしている。
しげるは「メロウなリラックスする自由時間」というものを知らない。
常に他の犬から自分のごはんを守るため、緊張感のある毎日を送ってきたのだろう。
映画で見た殺し屋は座って寝る。ゴルゴ13は不用意に背後を見せない、そしてしげるは寝る姿を見せない。
おそらく保護される前は繁殖行為と食事以外に何もすることがなかったのだろう。
散歩でさえも初めてだったのだ。
狭い中を何年間もくるくる巡回することしかなかった。
もちろん我が家に来てもその癖は簡単に抜けない。
もう体に刻まれたルーティーン。
そんなしげるがある日くるくる走るのを一旦止めて、体重を私の脚へ預けてきた。
軽く手で横方向に押してやると簡単に寝転んで、裏返り、腹を見せた。
人質を取った誘拐犯をようやく説得に応じさせたベテラン刑事の気分だ。
試しに私の座ってるソファに上げてみた。最初は戸惑ってたが、すぐに伏せの体制になった。
そして、、寝た。
時々物音が聞こえる度に、目だけをキョロキョロさせる警戒モード(弱)が始まるが、すぐにまたスヤスヤ寝始めた。
先代のパグとのリラックスタイムが思い出されたからだろうか、毎日奮闘してきた我々の成果が報われたからだろうか、元保護犬しげるが一歩づつ普通の暮らしの階段を登ってるのを実感できたからだろうか、涙がこぼれた。
その5分後、しげるはまたリビング内のパトロール(警戒モード(MAX))を再開した。